した様子になり、おしゃべりを始め、だれにたいしても恨みの影さえいだいていなかった。
クリストフの到来は、彼女の生活じゅうの大事件であった。彼の噂《うわさ》はしばしば聞いていた。クリストフは町の世間話の中に一地位を占めていた。そういうことは、地方の小さな評判の一形式であった。彼の名前は、オイレル家の話の中にもしばしば出てきた。ことにジャン・ミシェル老人がまだ生きてたうちはそうだった。老人は自分の孫を自慢にして、知人の家を回り歩いてはほめたてていた。ローザはまた一、二度、その若い音楽家を音楽会で見たことがあった。彼が自分の家に来て住むことを知ると、彼女は手をたたいた。その不謹慎な態度をきびしくしかられて、まったく当惑した。別に悪いことだとは思っていなかった。彼女のような平板な生活をしていると、新しい借家人が来ることは望外の気晴しだった。いよいよクリストフがやって来るという数日の間、彼女は待ち焦れて苛《い》ら苛《い》らしていた。家が彼の気に入らなくはないだろうかと心配して、できるだけ彼の部屋をきれいにしようと骨折った。移転の朝になると、歓迎のしるしとして、暖炉の上に小さな花束をもって来さえ
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