言いたてることがあっても、彼女はただ笑うばかりだった。彼女はそれを信じていなかったし、あるいはそれを大したことだとも思っていなかった。そして祖父や母の方も同じだった。彼女と同じくらいに醜い女やもっと醜い多くの女も、自分を愛してくれる男を見出していたではないか! ドイツ人は、肉体上の欠点にたいしては幸福な寛容さをもっている。彼らはそれを見ないでいられる。あらゆる顔だちと人間美の最も有名な模範的顔だちとの間に、意外な関係を発見するところの勝手な想像力によって、欠点を美化することさえもできる。オイレル老人をして、自分の孫娘はリュドヴィジのジュノーに似た鼻をもってると断言させるには、彼に多く説きたてるの要はなかったろう。ただ幸いにも、彼はきわめて小言家《こごとや》でお世辞を言わなかったまでである。そしてローザも、自分の鼻の格好には無頓着《むとんじゃく》で、素敵な家庭的義務を典例に従って履行することばかりを、自ら誇りとしていた。人から教え込まれるすべてのことを、福音書の言葉のように受けいれていた。家から出かけることはほとんどなかったので、比較の対象をあまりもたなかったし、家の者たちを率直に感嘆し
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