家主一家の者のおかしな様子などではなかったのと同じく、彼の信仰破滅の原因は、レオンハルトとの会話でないことは明らかだった。そういうのは口実にすぎなかった。惑乱は外部から来たのではなかった。惑乱は彼のうちにあった。見知らぬ怪物が心のうちに動き回ってるのを、彼は感じていた。そして自分の思想を内省して、自分の悪を真正面に見るだけの勇気がなかった。……悪? それは一つの悪だろうか? 倦怠《けんたい》、陶酔、快い苦悶《くもん》が、彼のうちにしみ込んでいた。もはや自分が自分のものではなかった。昨日まで信じていた堅忍主義のうちに堅く閉じこもろうとしても、駄目《だめ》であった。すべてが一挙に動揺した。彼はにわかに感じた、燃ゆるような野蛮な際限ない広い世界を……神よりも広大である世界を!……
そういうのは一瞬間のことにすぎなかった。しかし彼のこれまでの生活の均衡は、そのために以後はすっかり破られてしまった。
全家族のうちで、クリストフがなんらの注意をも払わなかった者は、ただ一人きりだった。それは娘のローザだった。彼女は少しも美しくなかった。そしてクリストフは、自分ではなかなか美しいどころではなかっ
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