そくなったのを心配して、帰ろうと言いだした。クリストフは答えなかった。レオンハルトはその腕をとらえた。クリストフは身を震わし、昏迷《こんめい》した眼でレオンハルトをながめた。
「クリストフさん、帰らなけりゃいけません。」とレオンハルトは言った。
「悪魔にでも行っちまえ!」とクリストフは激しく叫んだ。
「え、クリストフさん、僕が何かしましたか?」とレオンハルトはびっくりしてこわごわ尋ねた。
クリストフは正気に返った。
「そうだ、君の言うのはもっともだよ。」と彼はずっと穏かな調子で言った。「僕は自分でわからずに言ったんだ。神に行くがいい、神に行くがいい!」
彼は一人そこに残った。心は荒廃の極に達していた。
「嗚呼《ああ》、嗚呼!」と彼は両手を握りしめ、真暗《まっくら》な空の方を熱心にふり仰いで叫んだ。「もう信じないのは、どうしたことなのか。もう信ずることができないのは、どうしたことなのか。自分のうちに何か起こったのか?」
彼の信仰の破滅と、さっきレオンハルトとかわした会話との間には、あまりに大なる懸隔があった。彼の精神的決意のうちに近ごろ起こっていた動揺の原因は、アマリアの煩わしさや
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