の世界である。クリストフはその岸も際限もない広茫《こうぼう》たる鳴り響く海原のうちに迷い込んだ。
そして力強いその呟《つぶや》きが黙した時、その余響が空中に消え去った時、彼は我れに返った。彼は驚いてあたりを見回した。……もう何にも分らなかった。周囲も心のうちも、すべてが変っていた。もはや神もなかった……。
信仰と同じく、信仰の喪失もまた、神恵の一撃、突然の光明、であることが多い。理性はなんの役にもたたない。ちょっとしたことで足りる、一言で、一つの沈黙で、鐘の一声で。人は漫歩し、夢想し、何物をも期待していない。とにわかにすべてが崩壊する。人は廃墟《はいきょ》にとり巻かれたおのれを見る。一人ぽっちである。もはや信じていない。
クリストフは駭然《がいぜん》として、なぜであるか、どうしてこんなことが起こったのか、了解することができなかった。春になって河の氷解するのにも似ていた……。
レオンハルトの声は、蟋蟀《こおろぎ》の声よりもさらに単調に、響きつづけていた。クリストフはもはやそれに耳を貸さなかった。すっかり夜になっていた。レオンハルトは言いやめた。クリストフがじっとしてるのに驚き、お
前へ
次へ
全295ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング