考えにすぎません。一面から見れば、少しの善と多くの悪とがあります。また他面から見れば、地上には善も悪もないんです。そしてこの世の後には、無限の幸福があります。なんで躊躇《ちゅうちょ》することがありましょう。」
 クリストフはそういう数理的な考えをあまり好まなかった。そんな打算的な生涯《しょうがい》はきわめて貧弱に思われた。けれども、そこにこそ知恵が存するのだと思い込もうとつとめた。
「そんなふうでは、」と彼は少し皮肉を交えて尋ねた、「一時の楽しみに誘惑される恐れはないだろうね。」
「あるもんですか! それは一時のことにすぎないが、そのあとには永遠があるということが、わかってますからね。」
「じゃあ君は、その永遠というものを確信してるのかい?」
「もちろんです。」
 クリストフはいろいろ尋ねた。彼は欲求と希望とに震えていた。もしレオンハルトが神を信ずべき不可抗の証拠を示してくれるとするならば! いかに熱心に彼は、神の道に従うために、あらゆる他の世界をみずから捨て去ることだろう。
 レオンハルトは使徒の役目をするのを得意に感じていたし、そのうえ、クリストフの疑惑は形式にたいするものにすぎな
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