んでいた。そのため彼はあらゆることにたいして慎重になっていた。一度慎重になれば、常にそうならざるを得なかった。彼は苦しんだ。自分が二心をもって動いてるように思われた。いったい信じているのか、もしくは信じていないのか?……この問題を一人で解決するには、彼は実際的にもまた精神的にも――(知識と隙《ひま》とを要するので)――その方法をもたなかった。それでも問題は解決せなければならなかった。さもなくば彼は局外者となるかもしくは偽善者となるかの外はなかった。しかも彼は両者のいずれにもなることはできなかった。
 彼は周囲の人々をおずおず観察してみた。だれも皆各自に確信あるらしい様子をしていた。クリストフは彼らのその理由を知りたくてたまらなかった。しかし駄目《だめ》だった。だれも彼に明確な答えを与えてくれなかった。いつも顧みて他のことをばかり論じた。ある者は彼を傲慢《ごうまん》だとし、そういうことは論ずべきものではなく、彼よりも賢いすぐれた多くの人々が議論なしに信仰しているし、彼はただそういう人々と同じようにすればよいと言った。または、そういう問いをかけられることは、あたかも自分自身が侮辱されること
前へ 次へ
全295ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング