れは、だれも神聖な書物とは言いそうもないような、本質的には他の書物と少しも異るところのないある面白い珍しい書物の中から、くみとって来るのに似ていた。ほんとうを言えば、彼はキリストにたいして同感をもっていたとするも、ベートーヴェンにたいしてはさらに多く同感をもっていた。サン・フロリアン会堂の大オルガンについて、日曜の祭式の伴奏をやっている時、彼はミサによりもむしろ大オルガンの方に多く気をとられていたし、聖歌隊がメンデルスゾーンを奏してる時よりもバッハを奏してる時の方が、はるかに宗教的気分になっていた。ある種の式典は彼に激しい信仰心を起こさした。しかしその時、彼が愛していたのは神であったろうか、あるいは、不注意な一牧師がある日彼に言ったように、ただ音楽ばかりであったろうか? この牧師の冗談は彼を困惑せしめたが、牧師自身はそれを夢にも知らなかったのである。他の者だったら、そんな冗談には気も止めず、そのために生活態度を変えようとはしなかったろう――(自分が何を考えてるか知らないで平然としてるような者が、世にはいかに多いことだろう!)――しかしクリストフは、厄介にも真摯《しんし》を欲していたく悩
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