ることのように考えられた。それに元来彼は、そういうむずかしい事柄をあまり念頭においていなかった。根本においては、彼はひどく宗教的だったから、神のことを多く考えなかった。彼は神のうちに生きていた。神を信ずる必要がなかった。神を信ずるのは、弱い者や衰えた者など、貧血的な生活者にとってはよいことである。植物が太陽にあこがれるように、彼らは神にあこがれる。瀕死《ひんし》の者は生命にとりすがる。しかし、自分のうちに太陽と生命とを有する者は、なんで自分以外のところにそれらを求めに行く要があろう?
クリストフはもしただ一人で生きていたら、おそらくそれらの問題に頭を向けることがなかったであろう。しかし社会的生活の義理として、彼はそれらの幼稚な閑問題に考慮を向けざるを得なかった。社会においては、それらの問題は不均衡なほど大きな地位を占めていて、人は歩々にそれにぶっつかり、いずれか心を定めなければならないのである。力と愛とにあふれてる健全な豊饒《ほうじょう》な魂にとっても、神が存在するか否かを懸念《けねん》することより、もっと緊急な沢山《たくさん》の仕事があたかもないかのようである。……神を信ずることだ
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