い口のきき方をしていた。性急なアマリアには、彼が言い終えるのを待つだけの忍耐がなかった。皆の者が、彼の悠長《ゆうちょう》さに怒鳴り声をたてた。それでも彼は平気だった。どんなことがあろうと、彼の平静さと敬意のこもった謙譲さとは変化しなかった。クリストフはレオンハルトが宗教生活にはいるつもりだと聞いていた。そのために彼の好奇心はひどく動かされていた。
 クリストフは当時、宗教にたいしては、かなり門外漢の状態にあった。彼は自分でもどういう心持にあるか知らなかった。それを真面目《まじめ》に考えるだけの隙《ひま》がなかった。彼は十分の教養がなく、かつ困難な生活にあまり頭を奪われていたので、自分の心を分析してみることができず、思想を整理することができなかった。そして激しい性質だったので、自分の心に一致しようがしまいがそんなことはいっこう平気で、極端から極端へと移りゆき、全的信仰から絶対的否定へと移り変った。幸福な時には、ほとんど神のことは考えなかった、しかしかなり神を信ずる気持になっていた。不幸な時には、神のことを考えた、しかしほとんど神を信じていなかった。神が不幸や不正を許すとは、あり得べからざ
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