。自分の室――中庭に面した天井の低い小さな室――に閉じこもり、空気の流通が悪いにもかかわらず窓を密閉して、家の中の騒動を聞くまいとしたが、どうしてもそれから耳をふさぐことができなかった。知らず知らずに、苛立《いらだ》った注意をもって、下のわずかな物音にも聞き耳をたてていた。そして、ちょっと静かになった後、恐ろしい人声が壁や床を貫いてふたたび高まってくる時、彼は激怒に駆られた。怒鳴りつけ、足を踏みならし、壁越しに彼女をさんざんののしった。しかし皆騒ぎ回ってるので、それに気づきもしなかった。彼は作曲してるのだと思われていた。が彼はフォーゲル夫人を罵倒《ばとう》しぬいていた。尊意も敬意も消し飛んだ。そういう時彼には、最もふしだらな女でもただ黙ってさえいてくれるならば、いかに正直で美徳があろうとあまりに騒ぎたてる女よりも、はるかにましだと思われるのであった。

 喧騒《けんそう》にたいするそういう憎悪は、彼をレオンハルトに近づかせた。この少年だけがただ一人、家じゅうの混雑の中にあって、いつもじっと落着いていて、場合によって声を高めるようなことがなかった。言葉を選んで、少しも急がず、控え目な正し
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