な比較をもち出した。――まさしく彼は音楽を少しも知ってはいなかった。
婿の方はも少し教養があって、芸術界の気運にも通じていた。しかしそれだけにかえって悪かった。なぜなら、自分の判断にいつも誹謗《ひぼう》的精神を加えていたから。それでも趣味や知力が欠けてるのではなかった。ただ近代のものを賞賛する決心がつかなかったのである。もしモーツァルトやベートーヴェンが彼と同時代の人であったら、やはり彼らをも非難したろうし、もしワグナーやリヒアルト・シュトラウスが彼より一世紀も前に死んでいたら、彼らの価値を認めたことであろう。彼の憂鬱《ゆううつ》な性質は、現在自分の生存中に生きてる偉人があるということを、受けいれ得なかった。そう考えることは不愉快だった。彼は自分の失敗の生涯のために非常に気むずかしくなっていたので、生涯はだれにとっても失敗なものであるし、失敗であらざるを得ないものであって、その反対を信ずる者は、もしくは反対だと主張する者は、馬鹿か道化か、二つのうちの一つだということを、執拗《しつよう》に思い込んでいた。
それで彼は、名高い新人らのことを、苦々《にがにが》しい皮肉な調子でしか話さなか
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