なかった。しかしそういう天性を彼はうらやむに相違ないような才人が、世にはいかに多いことだろう! 多くの人は、二十歳か三十歳で死ぬものである。その年齢を過ぎると、もはや自分自身の反映にすぎなくなる。彼らの残りの生涯《しょうがい》は、自己|真似《まね》をすることのうちに過ぎてゆき、昔生存[#「生存」に傍点]していたころに言い為《な》し考えあるいは愛したところのことを、日ごとにますます機械的な渋滞的なやり方でくり返してゆくことのうちに、流れ去ってゆくのである。
 オイレル老人が生存[#「生存」に傍点]したのはずっと以前のことであったし、またきわめてわずかしか生存[#「生存」に傍点]しなかったので、貧弱なものしか残ってはいなかった。彼は昔の職業と家庭生活とに関すること以外には、何にも知らなかったし、また知ろうともしなかった。あらゆることについて、青年時代から変らない既成観念をいだいていた。彼は芸術に通じてると自称していた。しかしある定評のある名前を知ってるだけで満足し、それについていつも誇張したきまり文句をくり返していた。その他は皆つまらない無きに等しいものばかりだった。近代の芸術家のことを言
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