レルの思い出を知ろうとつとめたが無駄であった。彼がオイレルから引き出し得るものは、ジャン・ミシェルのかなりおかしな色|褪《あ》せた面影と、なんの面白みもない断片的な会話の文句ばかりだった。オイレルの話はいつもきまってこういう言葉で始められた。
「あの気の毒なお前のお祖父《じい》さんに私がいつも言ってたとおり……。」
 オイレルは自分で言ったことより以外には、何にも耳に止めていなかった。
 恐らくジャン・ミシェルの方でも、同じような聴《き》き方をしていたであろう。多くの友誼《ゆうぎ》は、他人相手に自分のことを語るための、相互|阿諛《あゆ》の結合にすぎない。しかし少なくともジャン・ミシェルは、冗弁の楽しみにあれほど無邪気にふけってはいたが、やたらに注ぎかける同情心をももっていた。彼は何にでも興味をもった。新時代の驚くべき発明を目撃したり、その思想に関係したりするために、もう十五年とは生き延びられないことを残念がっていた。彼は生活の最も大切な長所をそなえていた、すなわち、長い年月にも少しも衰えないで毎朝また蘇《よみがえ》ってくる新鮮な好奇心を。ただその天性を利用するだけの十分な才能をもってい
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