らの善良で誠実で親切な――正直な人間の精髄ともいうべき――りっぱな人々は、ほとんどすべての美徳をもってはいたが、しかし人生の美趣をなすところの一つの美徳が、彼らには欠けていた、すなわち寡黙の美徳が。
クリストフは隠忍な気分になっていた。彼の我慢のない怒りっぽい気質は、苦悶《くもん》のために和らげられていた。彼はみやびな魂の残忍な冷酷さを経験したので、優美な点もなくひどく退屈な者ではあるが、しかし人生について厳粛な観念をいだいている善良な人々の価値を、いっそうよく感ずるようになっていた。彼らは喜びもなく生活しているので、弱点のない生活をしているように彼には思われた。彼はそういう人々をりっぱな人だときめていたし、自分の気に入るに違いないときめていたので、ドイツ人の気質として、彼らが実際自分の気に入ってるのだと思い込もうとつとめた。しかしそれはうまくゆかなかった。注目するのが不愉快なようなものは、自分の判断の適宜な安静と自分の生活の愉悦とを乱されるのを恐れて、いっさい見ることを欲せずまた見もしないという、ゲルマン風な阿諛《あゆ》的理想主義が、彼には欠けていた。彼は他人を愛する時、なんらの
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