静かなやさしいかなり美しい眼をもっていて、こまやかな顔色の鮮《あざや》かさと気質《きだて》のよさそうな様子とのために、かわいらしく見えるはずだったが、ただ、鼻が少しいかつくて据《すわ》りぐあいが悪く、顔つきに重苦しい感じを与え、彼女を馬鹿《ばか》者らしく見せていた。バールの美術館にあるホルバインの描いた若い娘――マイエル町長の娘――すわって、眼を伏せ、膝《ひざ》に両手を置き、蒼白い髪を解いて両肩に垂れて、無格好な鼻を当惑してるような様子でいる、あの娘を、ローザは思い起こさせるのであった。しかし彼女は、自分の鼻をほとんど気にしていなかった。それくらいのことは、彼女の倦《う》むことのない饒舌《じょうぜつ》を少しも妨げなかった。種々なことをしゃべりたてるその鋭い声――すっかり言ってしまう隙《ひま》がないかのようにいつも息を切らして、いつも興奮して熱中しきってる声が、たえず聞こえていた。母や父や祖父から、腹だちまぎれの怒鳴り声を浴びせられても、なお彼女はやめなかった。それにまた彼らが腹だつのも、彼女がいつもしゃべってばかりいるからというよりむしろ、自分らに口をきく隙を与えないからであった。それ
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