何度も口に上せるために、しまいにはそれをほんとうと思い込んだ。ちょっとした風邪《かぜ》をも大袈裟に考えた。すべてが不安の種となった。丈夫に暮してると、後《あと》で病気になりはすまいかと考えて気をもんだ。そういうふうにして、生活は絶えざる杞憂《きゆう》のうちに過ぎていった。けれども、そのためにだれも加減が悪くなる者はなかった。その絶え間もない嘆きの習慣が、皆の健康を維持するのに役だってるがようだった。だれも皆平素のとおり、食い眠り働いていた。一家の生活はそのために弛緩《しかん》してはいなかった。アマリアの活動的な性質は、朝から晩まで、家の上から下まで、始終動き回っても満足しなかった。まわりの者まで皆精を出さなければ承知しなかった。そして家具を動かしたり、敷石を洗ったり、床石をみがいたりして、声や足音が立ち乱れ、たえず忙しく騒々しかった。
 二人の子供は、だれにも安閑としてることを許さないその騒ぎ好きな権力のもとに圧伏されて、それに服従するのが自然だと思ってるらしかった。男の子のレオンハルトは、なんとなくきれいな顔つきで、几帳面《きちょうめん》な様子をしていた。少女のローザは、金髪で、青い
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