的な憂鬱病者[#「陰気な非ギリシャ的な憂鬱病者」に傍点]」と呼んでいた、あの不幸な人間の一人であった。
 アマリアはどちらとも異っていた。強健で、騒々しく、活発で、夫の愚痴をきいても少しも気の毒と思わなかった。夫を荒々しく励ましていた。しかし常にいっしょに住んでいると、いかなる力もくじけるものである。一つの家庭において、二人のいずれかが神経衰弱だと、数年後には、二人とも神経衰弱になってることがしばしばである。アマリアはフォーゲルに強い言葉をかけはしたが、すぐその後では、彼よりもなおひどくみずから嘆くようになった。荒々しい素振りから悲嘆へと急激に移っていって、少しも夫のためにはならなかった。些細《ささい》なことにも騒々しく騒ぎたてながら、かえって彼の病を募らした。そしてついには、わずかな愚痴にもそういう大|袈裟《げさ》な反響を返されるのにおびえきってる不幸なフォーゲルを、すっかり圧倒してしまったばかりでなく、また自分自身をも圧倒してしまった。こんどは自分から、自分の丈夫な健康状態や、父や娘や息子の丈夫な健康状態などについて、理由もないのに嘆くようになった。それが一種の病癖となった。そして
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