めに内部生活の源泉をたいせつにしなかった老人らにとっては、この無為閑散ということが非常に重苦しくなるものである。先天的あるいは後天的なあらゆる習慣は、職業柄のあらゆる習慣は、オイレル老人にある小心さと悲しみとを与えていた。そしてそれはまた、おのおのの子供のうちにも幾分か存していた。
 婿のフォーゲルは、司法局の役人で、五十歳ばかりだった。背が高く、強壮で、頭がすっかり禿《は》げ、金縁眼鏡で顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》をはさみつけ、かなりの容貌《ようぼう》だった。彼はみずから病気だと思っていた。そして実際、みずから思ってるような病気は明かに一つももってはいなかったが、つまらない職務のために精神はとがり、坐居《ざきょ》生活のために身体はやや衰退して、病気には違いなかった。もとよりごく勤勉で、価値のない男でもなく、多少の教養をもそなえてはいたが、不条理な近代生活の犠牲者であって、役所の椅子《いす》に縛りつけられた多くの役人と同じく、憂鬱病《ヒポコンデリー》の悪魔に苦しめられていた。ゲーテが、自分では注意してよく避けながらも、それを憐《あわ》れんで、「陰気な非ギリシャ
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