と沈黙とを欠いた生活、生存を萎微《いび》させるようなものはなんでも取上げる浅薄な悲観思想、他人を理解するよりも軽蔑《けいべつ》する方を易《やす》しとする傲慢《ごうまん》な非理知、すべてそれらの、偉大さも幸福も美もない凡俗な道徳、それは実に醜悪な有害なものである。それは実に、美徳よりも悪徳の方に、いっそう人間的な観を与えさせるものである。
そういうふうにクリストフは考えていた。そして自分を傷つけた者を傷つけ返してやりたいという欲求に駆られて、自分も相手の人たちと同様に間違ってるということには気づかなかった。
もちろんこの憐《あわ》れな人たちは、ほとんど彼の観察どおりであった。しかしそれは彼らの罪ではなかった。彼らの顔つきや態度や思想を不愛想ならしめてしまった、不愛想な生活の罪であった。彼らは悲惨から――一挙に落ちかかって人を殺すかあるいは鍛えるかする大悲惨からではなく――たえずくり返される不運、最初の日から最後の日に至るまで一滴ずつ落ちてくる小さな悲惨から、変化されてしまっていた……。なんと悲しむべきことであるか! なぜなら、それらの粗硬な表皮の下には、方正や善良や無言の勇気など、い
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