をみだすものであった。彼らとの対照によってこそ人は、不徳義ではあってもしかし愛想のいいにこやかな人たちに、誘惑を感ずるのであった。ついには生活を陰鬱《いんうつ》にし害毒するほどの堅苦しい横柄な厳格さで、つまらない雑役や取るに足らぬ行いなど、すべてに、義務という言葉を通用するのは、かえって義務の名を涜《けが》すものである。義務は特殊なものである。実際の献身の場合のために、それは保留しておかなければいけない。自分の不機嫌《ふきげん》や、他人を不快がらせようとする欲望などを、義務の名で覆《おお》ってはいけない。自分が愚かにもまたは不面目にも陰気だからと言って、すべての人が陰気であるようにと願い、すべての人に自分の不具な摂生法を強いんとするのは、理由のないことである。美徳のうちで第一のものは、喜悦である。美徳は、幸福な自由なこだわりのない顔つきをしていなければいけない。善をなす者は、みずから自身を喜ばせなければいけない。しかるに、フォーゲル一家のいわゆる常住不断の義務、小学校教師みたいな圧制、やかましい口調、役にもたたない議論、不快な幼稚な理屈、喧騒《けんそう》、優雅の欠乏、あらゆる魅力と礼節
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