だ》って乱暴な返辞をすると、もう彼女はなんとも言わなかった。しかしその眼にはやはり心痛の色があるのを、彼は読みとった。家にもどってきて、彼女が泣いてたことに気づくことも時々あった。彼は母の性質をよく知っていたので、そういう心配は彼女自身の心から出たものでないことを確信した。――そしてどこからその心配が来るかを知った。
彼はそれを片付けてしまおうと決心した。ある晩、ルイザは涙を押えきれなくなって、食事の最中に立上った。クリストフはその悲しみの種を聞く隙《ひま》もなかった。彼は大胯《おおまた》に階段をまたぎ降り、フォーゲル一家のもとに押しかけていった。彼は憤りに燃えたっていた。母にたいするフォーゲル夫人の振舞を怒ってるばかりではなかった。ローザを煽動《せんどう》して敵意をもたせたこと、ザビーネを中傷したこと、その他数か月来しいて我慢してきた数々のこと、その仕返しをしてやらなければならなかった。彼は数か月以来、積り積った恨みの荷を背負っていて、それを早くおろしてしまおうとした。
彼はフォーゲル夫人の室に飛び込んだ。そして、しずめようとしてもなお激怒に震える声で、母にどんなことをいってあん
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