ならしむるためにごく必要な、多少のやさしい同情ばかりであった。親切でさえあれば、というのが彼女にとっては肝要なことだった。
 しかしフォーゲル家に住んで以来、彼女は皆から変化されつつあった。当時彼女はがっかりして反抗するだけの力がなかっただけになおさら、一家の誹謗《ひぼう》的な精神は容易に彼女を餌食《えじき》にしてしまった。アマリアが彼女を奪い取った。朝から晩まで、二人いっしょに仕事をし、アマリア一人口をききながら、ずっと差向いでいるうちに、受身で圧倒されがちなルイザは、知らず知らずのうちに、すべてを判断し批評するような習慣になってしまった。フォーゲル夫人はクリストフの行状にたいする自分の考えを、彼女に言わないではおかなかった。ルイザの平気なのが癪《しゃく》にさわっていた。自分たち一家の者が憤慨してる事柄をルイザがいっこう気にも留めないのは、不都合なことだと考えていた。彼女の心をすっかり乱させることができないのを、不満に思っていた。クリストフはそれに気がついた。ルイザは思い切って彼をとがめることができなかった。しかし毎日、小心な不安な執拗《しつよう》な意見がくり返された。彼が苛立《いら
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