せず、愛と無言の喜悦との奔流に浸って、うとうととしたそれらの眠りを。ちょっと触れてもすでに人知れず顔色が変り一身が快感のうちに溶け去ってゆくほどの、突然の追憶、種々の事象、隠密な考えなどが、蜜蜂《みつばち》のような羽音を立てて二人を取り巻いていた。燃えたつやさしい光。心はあまりに大きな楽しさに圧倒されて、惘然《ぼうぜん》となり黙り込んでゆく。春の初光のうち震える大地の沈黙、熱っぽい懶《ものう》さ、けだるい微笑……。若々しい二つの身体の清新な愛は、四月の朝である。それは露のように過ぎてゆく。心の若さは、太陽の朝餐《ちょうさん》である。

 クリストフとアーダとの恋愛関係をますます密接ならしめたものは、ことに彼らに対する世間の批評であった。
 二人が最初に出会ったその翌日から、近くの人々は皆それを知った。アーダは少しもその情事を隠そうとしなかった。むしろ彼を手に入れたことを自慢にしたがっていた。クリストフはもっと内密にしたがっていたが、しかし人々の好奇心につきまとわれてるのを感じた。そしてアーダの前を逃げようとする様子をしたくなかったので、わざと彼女といっしょのところを見せつけていた。小さ
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