な町じゅうにぱっと噂《うわさ》がたった。クリストフの管弦楽団の仲間は、彼に嘲笑《ちょうしょう》的なお世辞を述べた。彼は自分のことに他人が干渉するのを許し得なかったので、返辞もしなかった。官邸でも、彼の不品行が非難された。中流市民らは、彼の行いをきびしく批評した。彼は数軒の音楽教授の口を失った。また他の家では、それ以来母親たちは、あたかもクリストフが大事な娘を奪おうと思ってでもいるかのように、疑い深い様子をして、娘の稽古《けいこ》に立ち合わなければいけないと考えた。令嬢たちは何にも知らないことと見なされていた。しかし、もとより彼女らはすっかり知っていた。そして、クリストフは趣味を解しないとして冷遇しながら、もっと詳しいことを非常に知りたがっていた。クリストフの評判がいいのは、小さな商人や店員などの間ばかりだった。しかしそれも長つづきはしなかった。彼は一方の悪評にたいするのと同じく、他方の好評にたいしても腹をたてていた。そして悪評の方はなんともしようがなかったので、称賛の方がつづかないような策をとり、しかもそれはさほど困難なことではなかった。彼は世間一般の無遠慮を憤っていた。
 彼にたいし
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