だったろう。元来彼女は、幸福なるために天賦の才をもっていて、大食であり、怠惰であり、淫蕩《いんとう》であり、クリストフをいやがらせまた面白がらせる無邪気な利己心をそなえていたし、約言すれば、友だちにたいしてではないが、仕合せにもそれをもってる本人にたいして人生を愉快ならしむるところの、ほとんどあらゆる悪徳をもっていたし――(それになお、幸福な顔つきをしていたが、この幸福な顔つきは、少なくともそれがきれいである以上は、すべて近寄る人たちの上に幸福を光被するものである)――かくて生存に満足すべき多くの理由がありはしたけれど、しかし満足するだけの知力さえそなえてはいなかった。健康そうな様子をし、あふれるばかりの快活さを有し、猛烈な食欲をそなえ、清新で、陽気で、美しい丈夫なこの娘は、自分の健康を気づかっていた。馬のように大食しながら、身体の弱いことを嘆いていた。あらゆる愚痴をこぼしていた、もう歩けない、もう息がつけない、頭痛がする、足が痛む、眼が痛む、胃が痛む、心が痛む、などと。あらゆるものを恐《こわ》がり、ばかに迷信家で、どこにでも何かの前兆を認めていた。たとえば食卓では、ナイフ、十字に組合
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