し、顔を洗いながら十四連の感傷的な歌曲《リード》を歌い、窓につかまってタンブリンの音をまねてるクリストフの顔に水をはねかけ、出かける時には、庭に咲き残ってる薔薇《ばら》の花を摘み取り、そして二人は船に乗った。霧はまだ晴れていなかった。しかしそれを通して日が輝いていた。乳色の光の中に浮んでる気がした。アーダはクリストフとともに艫《とも》の方にすわり、うとうととした不平そうな様子をし、光が眼にしみるとか、一日じゅう頭痛がするだろうとか、愚痴を言っていた。そしてクリストフが、彼女の苦情を十分本気にとってやらなかったので、彼女は無愛想に黙り込んでしまった。わずかに細目を開き、眼覚めたばかりの子供のようなおかしな鹿爪《しかつめ》らしさをしていた。しかし次の乗船場で、優美な貴婦人が乗り込んで近くにすわると、彼女はすぐに元気になって、感傷的な上品なことをクリストフに言おうとつとめた。四角張った言葉使いを彼にしだした。
 クリストフは彼女が女主人になんと遅延の言い訳をするか、それを気にしていた。彼女はほとんど気にかけてもいなかった。
「なに、初めてのことじゃないわ。」
「何が?……」
「おそくなったの
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