、彼女の眼を覚させまいと、その心配は少しもなかったが、とにかく用心をした。それが済むと、窓ぎわの椅子《いす》にかけて、氷塊がころげてるかと思われるような、霧の濛々《もうもう》と立ちこめた河をながめた。そして夢想のうちに惘然《ぼうぜん》と沈んでゆくと、哀調を帯びた牧歌の曲が漂ってきた。
時々彼女は、眼を少し開いて、ぼんやり彼の方をながめ、幾秒かかかって彼の姿を認め、彼に微笑《ほほえ》みかけ、またも眠りに陥っていった。彼女は彼に時間を尋ねた。
「九時十五分前だよ。」
彼女は半ば眠りながら考えた。
「まだなんでもないわ、九時十五分前なら。」
九時半に、彼女は伸びをし、溜息をつき、起きると言った。
しかし彼女がまだ動かないうちに、十時が鳴った。彼女は不機嫌《ふきげん》になった。
「また鳴ってるわ!……いつも時間の進むこと!……」
彼は笑った。そして彼女のそばに来て寝台に腰かけた。彼女は彼の頸《くび》に両腕をまきつけて、夢の話をした。彼はあまり注意して聞かないで、ちょいちょいやさしい言葉をはさんでさえぎった。しかし彼女は彼を黙らして、非常に重大な話かなんぞのように、ごく真面目《まじめ》
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