ことだ! もしそうでなかったら、地上にはもはや道徳が存し得なくなるだろう。
人声は近づいてきた。連れの者たちが道に出て来るところだった。彼女は一飛びに路傍の溝《みぞ》を踊り越し、その土手によじ上り、木立の後ろに隠れた。彼はびっくりして彼女のすることをながめていた。彼女は来いと強く相図をした。彼はあとについていった。彼女は林の中の方にはいり込んでいった。
「おーい!」と彼女は連れの者たちがかなり遠くなった時にふたたび言った。「……少し捜さしてやらなきゃいけないわ。」と彼女はクリストフに言ってきかした。
連れの者たちは道の上に立止って、どこから声が響いてくるのか耳を傾けた。彼らは彼女の声に答えて、つづいて林の中にはいってきた。しかし彼女は待っていなかった。右に出たり左に出たりして面白がった。彼らは喉《のど》を涸《か》らして呼んでいた。彼女はそのままにさしておいて、それから反対の方へ行って呼んだ。ついに彼らは疲れてしまった。彼女を出て来させる最上の策は、少しも捜してやらないことにあるのだと信じて、こう叫んだ。
「さようなら!」
そして歌いながら去っていった。
彼女は彼らにほったらかさ
前へ
次へ
全295ページ中192ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング