かった。二人はどこへともなくただまっすぐに歩き出した。
「そしてあなたは、どこへいらっしゃるの?」と彼女は言った。
「僕もわからないんです。」
「ちょうどいいわ。いっしょに行きましょう。」
 彼女は少しはだけてるチョッキから梅の実を取出して、それをかじりだした。
「毒になりますよ。」と彼は言った。
「いいえちっとも。いつも食べてるのよ。」
 チョッキの隙間《すきま》から彼は彼女の肌襦袢《はだじゅばん》を見ていた。
「もうすっかりあたたかになっちゃったわ。」と彼女は言った。
「どれ!」
 彼女は笑いながら彼に一つ差出した。彼はそれを食べた。彼女は子供のように梅の実をすすりながら、横目で彼をながめていた。彼にはこの出来事がしまいにどうなるかよくわからなかった。が彼女には少なくとも多少の見当はついていた。彼女は待っていた。
「おーい!」と林の中で叫ぶ声がした。
「おーい!」と彼女は答えた。「……あらいたわ、」とクリストフに言った、「まあよかった。」
 彼女は反対に、かえって悪いと考えていた。しかし女にとっては、言葉というものは考えどおりのことを言うために与えられたものではない。……ありがたい
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