いものだったので、彼はその家主たちにいっそう敬意をいだいて、その些細《ささい》な欠点には眼をつぶってやった。
彼と母とは、散らかった室にまた上ってゆくと、悲しいがっかりした気持を覚えたが、しかし前ほど孤独な気はしなかった。そしてクリストフは、疲労と町内の騒々しさとに眠られないで、夜のうちに眼を開きながら、壁を震わす重い馬車の響きや、下の階に眠ってる一家の者の寝息などを聞きつつ、一方では、自分と同じように苦しんでいて、自分を理解しているらしく、また自分も向うを理解できるように思われる、それらの善良な――実を言えば多少煩わしい――人々の間にあって、幸福ではないまでも、前ほど不幸ではないだろうと、しいて思い込もうとした。
しかし彼は、ついにうとうとしたかと思うと、夜明けごろから不快にも眼をさまさせられた。議論を始めた隣りの人たちの声が響いたし、中庭や階段をやたらに水を注いで洗うために、猛烈に動かされているポンプのきしる音が、響いたからであった。
ユスツス・オイレルは、背のかがんだ小さな老人で、落着きのない陰気な眼をし、皺《しわ》寄ったでこぼこの赤ら顔で、頤《あご》は歯がぬけ、手入れの
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