オイレルも娘も、話をやめてその議論に加わった。シチューの中に塩が多すぎるか足りないかということについて、はてしない争論がもち上った。皆たがいに尋ね合ったが、同じ意見は一つもなかった。各自に隣りの者の味覚を軽蔑《けいべつ》して、自分の味覚だけが正当で健全であると思っていた。「最後の審判」の日までもその議論はつづくかと思われた。
 しかしついに、天気の悪さをいっしょに嘆くことに、皆折合いがついた。彼らはルイザとクリストフとの苦しみを親切に気の毒がってくれ、クリストフが感動したほどやさしい言葉で、二人の勇気ある行いを誉《ほ》めてくれた。ただにその借家人たちの不幸ばかりではなく、自分たちの不幸や、友人やすべての知人らの不幸をも、満足げにもち出した。そして善人は常に不幸で利己主義者や不正直な者らにしか喜びはないものだということに、彼らの意見は一致した。その結論としては、生活は悲しいものだということ、生活はなんの役にもたたないということ、苦しむために生きるよりも、もとより神の思召には適《かな》わないが、死んだ方がずっとましであるということ、などであった。そういう考えは、クリストフの現在の悲観説に近
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