》に歩を運んでいた。散歩の初めから頭につきまとってた律動をもってる一句を、彼は歌っていた。そして真赤《まっか》な色をし、胸をはだけ、狂人のように腕を振り、眼をきょろつかせながら、やって行くと、道の曲り角で、金髪の大きな娘に、ぱったり出会った。娘は壁の上に乗って、大きな枝を力任せに引張りながら、紫色の小さな梅の実を、うまそうに食っていた。彼らは二人とも同じようにびっくりした。彼女はどきまぎして、口いっぱいほおばりながら彼をながめた。それから笑い出した。彼も同じく放笑《ふきだ》した。彼女は見るも快い姿だった、光の粉を散らしたような、縮れた金髪で縁取られた丸顔、赤いふっくらとした頬《ほお》、青い大きな眼、横柄にそりくり返ってるやや太い鼻、つき出た強い糸切歯をそなえたまっ白な歯並が見えてる、ごく赤い小さな口、貪食《どんしょく》的な頤《あご》、それから、丈夫な骨組みの体格のよい、大きな脂《あぶら》ぎった豊饒《ほうじょう》な身体。彼は彼女に叫んだ。
「御|馳走《ちそう》さま!」
 そして歩きつづけようとした。しかし彼女は呼びかけた。
「もし、もし、少し親切にしてくださらないこと? 助けておろしてち
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