のが心の奥底に、愛した人たちの小さな墓場のごときものをもっている。彼らは何物にも覚《さま》されずに、幾年月かをそこに眠る。しかし他日その墓窟《はかあな》の開ける日が――人の知るごとく――めぐって来る。死者はその墓を出でて、母の胎内に眠ってる子供のように、彼らの思い出が息《やす》らっている胸を持つ愛人へ、愛する者へ、色|褪《あ》せた唇《くちびる》で頬笑《ほほえ》みかける。
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三 アーダ
雨がちな夏のあとに、秋が輝いていた。果樹園の中には、果実が枝の上に群れをなしていた。赤い林檎《りんご》が、象牙珠《ぞうげだま》のように光っていた。ある樹木は早くも、晩秋の燦爛《さんらん》たる衣をまとっていた。火の色、果実の色、熟した瓜《うり》や、オレンジや、シトロンや、美味な料理や、焼肉などの、種々の色彩《いろどり》。鹿子色《かのこいろ》の光が、林の間の至る所にひらめいていた。そして牧場からは、透き通ったさふらん[#「さふらん」に傍点]の小さな薔薇《ばら》色の炎が立ちのぼっていた。
彼は丘を降りていた。日曜の午後だった。彼は傾斜に引かれてほとんど駆けながら、大胯《おおまた
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