うちに湧《わ》き上ってきた。彼の悲痛、愛惜、清浄な燃えたつ愛、抑圧された欲望は、彼の熱を高進さしていった。喪の悲しみにもかかわらず、彼の心臓は快い激しい律動で鼓動していた。いきり立った歌が酔い狂った音律で踊っていた。すべてが生命を祝頌《しゅくしょう》し、悲しみさえも祝いの性質を帯びていた。クリストフはきわめて率直だったから、みずから幻を描きつづけることができなかった。そして彼はおのれを蔑《さげす》んだ。しかし生命は彼に打ち勝った。死に満ちた魂と生命に満ちた身体とを持って、彼は悲しみながら、復活の力に身を任せ、狂妄《きょうもう》な生の喜びに身を任した。強者にあっては、苦悶《くもん》も、憐憫《れんびん》も、絶望も、回復できない亡失の痛切な負傷《いたで》も、死のあらゆる苦痛も、猛烈な拍車で彼らの脇腹《わきばら》をこすりながら、この生の喜びを刺激し煽動《せんどう》するばかりである。
かつまたクリストフは、ザビーネの影が閉じ込められてる近づきがたい侵しがたい奥殿を、自分の魂の底の深みにもっているということを、よく知っていた。生命の急流もこの奥殿を流し去ることはできないだろう。人は皆おのおの、お
前へ
次へ
全295ページ中186ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング