ょうだいな。降りられなくなったから……。」
彼はもどってきた。どうして上ったかと尋ねた。
「手足で……上るのはいつもやさしいものよ……。」
「うまそうな果物《くだもの》が頭の上にぶらさがってる時には、なおさらでしょう。」
「ええ……でも食べてしまうと、がっかりするわ。もうどこから降りていいかわからなくなってしまうわ。」
彼はそこにとまってる彼女をながめた。そして言った。
「そうやってるとよく似合いますよ。そこにじっとしていらっしゃい。また明日《あした》見に来ます。さよなら!」
しかし彼は彼女の下にたたずんで、動かなかった。
彼女は恐《こわ》がってるふうをした。そしてかわいい顔つきで、置きざりにしないようにと願った。二人は笑いながら、そのまま顔を見合っていた。彼女はつかまってる枝を彼にさし示しながら言った。
「あげましょうか。」
所有権にたいするクリストフの尊重の念は、オットーとともに彷徨《ほうこう》していたころよりも、少しも発達していなかった。彼は躊躇《ちゅうちょ》なく承諾した。彼女は彼に梅の実を投げつけながら面白がった。
彼が食べてしまうと、彼女は言った。
「さあこれで!
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