わせただろうということを、彼は疑わなかった。それでなお彼はローザをきらった。人が――(フォーゲル一家の者でも、ルイザでも、ローザ自身でも)――彼の一身を相談もなくひそかに処置するならば、もはやそれだけの事実で、いかなる場合においても、愛してもらいたいという女から彼を遠ざけるには十分だった。彼は自分がたいせつにしてる自由に手を触れられると思うたびごとに、猛然と反抗した。しかしこんどの場合は、彼一人だけの問題ではなかった。彼にたいする人々の越権な振舞は、ただに彼の権利を侵害するばかりではなく、彼が心をささげていた死者の権利をも侵害するものであった。それで彼は、だれからも攻撃されはしなかったのに、猛然と権利を防護しようとした。彼はローザの善良さをも疑った。ローザは彼が苦しむのを見て自分も苦しみ、しばしば訪れて来ては、彼を慰めようとし、彼にあの女《ひと》の話をしようとした。彼はそれをしりぞけなかった。彼はザビーネが生前知り合いだっただれかとその話をしたかった。病中の些細《ささい》な出来事をも知りたかった。しかし彼はローザのそういう親切を感謝しなかった。彼女の心に打算的な動機があると見なしていた
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