たまらなかった。彼は彼らを責むべきものは持っていなかった。皆ごく善良な人々でごく敬虔《けいけん》であって、死にたいしては私の感情を抑制していた。クリストフの苦しみを知っていて、どう考えたにしろとにかくそれを尊重していた。彼の前でザビーネの名前を口にすることを避けた。しかし彼らは、彼女の生前には彼の敵であった。それだけの事実で彼はもう十分に、彼女がいなくなった今でも彼らに敵意を含むことができた。
 そのうえ、彼らは騒々しい振舞を少しも変えなかった。一時的であるがとにかく真面目《まじめ》な憐憫《れんびん》の情を感じはしたが、その不幸に無関心なことは――(それは当然すぎることだったが)――明白であった。おそらく彼らは、心ひそかに厄介払いをした気持さえ感じたであろう。少なくともクリストフはそう想像した。彼にたいするフォーゲル一家の意向が明らかにわかってる今では、彼はややもすればそれを誇張して考えがちだった。実際においては、彼らはあまり彼を眼中においてはいなかった。そして彼は自分を重大視すぎていた。ザビーネの死は、家主一家の計画から主要な障害を取り除いて、ローザに自由の地を与えるものだと彼らに思
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