両手に顔を隠しながら、さらに激しくむせび泣いた。ローザはもうなんとも言うことができなかった。クリストフの情熱の利己主義に、彼女は胸を刺し通された。最も彼に近づいてると思っていた瞬間に、かつてなかったほど孤独な惨《みじ》めな自分を感じたのであった。苦しみは、二人を近づけるどころか、ますます二人を引離していた。彼女は苦《にが》い涙を流した。
 ややあってクリストフは泣くのをやめた、そして尋ねた。
「でもどうして、どうして?……」
 ローザはその意味がわかった。
「あなたが発《た》った晩に、インフルエンザにかかったのよ、そしてすぐに亡《な》くなって……。」
 彼はうなった。
「ああ!……なぜ僕に知らしてくれなかったんだろう?」
 彼女は言った。
「私は手紙を書いたのよ。でもあなたのお所がわからなかったの、なんとも言い置いてくださらなかったんですもの。芝居へも聞きに行ったけれど、だれも知っていなかったの。」
 彼は彼女の恥ずかしがりなことを知っていたし、その奔走にはたいへん骨折れたろうと察した。彼は尋ねた。
「あの女《ひと》が……あの女がそうしてくれと言ったんですか?」
 彼女は頭を振った。

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