かった。彼に泣くことができようとさえも思っていなかった。彼女は自分の少女の涙しか知らなかった。そしてこういう男子の絶望を見ると、恐怖と憐憫《れんびん》とが胸いっぱいになった。彼女はクリストフにたいして熱烈な愛情を覚えていた。その愛には少しも利己的な点がなかった。それは犠牲になりたい無限の欲求、彼のために苦しみたい渇望、彼のあらゆる苦しみを身に引受けてやりたい渇望であった。彼女は母親のように彼を両腕で抱いてやった。
「クリストフさん、」と彼女は言った、「泣いてはいけないわよ!」
 クリストフは横を向いた。
「死んでしまいたい!」
 ローザは両手を握り合した。
「そんなことを言っちゃいや、クリストフさん。」
「僕は死んでしまいたい。もうできない……もう生きておれない……生きてたってなんの役にたつもんか。」
「クリストフさん、ねえクリストフさん、あなたは一人ぽっちじゃないわ。あなたを愛してる人もあってよ……。」
「それがなんになるもんか。もう何もかも厭《いや》だ。他のものは生きようと死のうと勝手だ。何もかも厭だ。あの女《ひと》だけを愛してたのに、あの女だけしか愛していなかったのに!」
 彼は
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