途で口をつぐんだ。彼女は悲しげな顔をし、眼をそらし、何かが心にかかるらしかった。それからまたしゃべりだした。しかし彼女はそれをみずからとがめるらしく、またぴたりと言葉を途切らした。彼もついにそれに気がついて言った。
「いったいどうしたんです。僕に不平なんですか?」
 彼女は否と言うために、強く頭を振った。そして例のとおりだしぬけに、彼の方を向きながら両手でその腕をとらえた。
「おう、クリストフさん!……」と彼女は言った。
 彼ははっとした。手にもっていたパンを取り落とした。
「え、なんです?」と彼は言った。
 彼女はくり返した。
「おう、クリストフさん!……たいへん悲しいことが起こったの……。」
 彼はテーブルを押しやった。そして口ごもった。
「ここで!」
 彼女は中庭の向う側の家をさし示した。
 彼は叫んだ。
「ザビーネさんが!」
 彼女は泣いた。
「死にました。」
 クリストフはもう何にも眼にはいらなかった。彼は立上った。倒れるような気がした。テーブルにつかまった。上にのってた物を皆ひっくり返した。大声にわめきたかった。ひどい苦痛をなめた。※[#「口+区」、第4水準2−3−68]吐
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