で中庭を通りすぎた。彼女をふいに驚かしてやろうと楽しんでいた。彼は自分の部屋へ上っていった。母は眠っていた。彼は音をたてずに服装《みなり》をととのえた。腹がすいていた。しかし戸棚《とだな》を捜したらルイザが眼覚めはすまいかと恐れた。中庭に足音が聞えた。そっと窓を開いて見ると、例のとおりローザがまっ先に起き上って、掃除を始めてるのであった。彼は小声で呼んだ。彼女は彼の姿を見て、うれしい驚きの身振りをした。それからいかめしい様子をした。彼はまだ彼女から恨まれてるなと考えた。しかし非常に気が晴々していた。彼女のそばへ降りて行った。
「ローザさん、ローザさん、」と彼は快活な声で言った、「何か食べる物をくださいよ。くれなけりゃあなたを食っちまう。腹がすいてたまらない!」
ローザは微笑《ほほえ》んだ。そして彼を一階の台所へ連れていった。彼に牛乳を一|碗《わん》ついでやりながら、旅や音楽会などのことをしきりに尋ねないではおかなかった。しかし彼が快くそれに答えているのに――(帰ってきた喜びのために彼は、ローザの饒舌《じょうぜつ》に出会ってもかえってうれしいくらいだった)――ローザはにわかに、問いの中
前へ
次へ
全295ページ中159ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング