楽しみを見出していた。かなたには自分を待ってる人がいること、自分を愛してる人がいることが、わかっていた。……愛してる? 彼女はまだかつてそれを彼に言わなかった。彼はかつてそれを彼女に言わなかった。しかしもとより口に言うまでもなく、二人はそれを知っていた。とは言え、最も貴重なのは確実な告白であった。なぜ二人は、それをするのにあれほど長く待ったのであろうか。告白を口に出そうとすると、いつも何かが――ある偶然事が、ある邪魔物が――それを妨げたのだった。なぜか? なぜなのか? いかに多くの時を二人は失ったことだろう! 彼は恋しい人の口からその大事な言葉が出るのを聞きたくてたまらなくなった。彼はその言葉を彼女に言いたくてたまらなくなった。そして人のいない車室の中で、それを声高く言ってみた。近くなるに従って、焦燥の念で胸が迫ってきた、一種の苦悶《くもん》で……。もっと早く走れ! さあもっと早く! ああ、一時間たてば彼女に会えるのだと考えると!……
彼が家へ戻ったのは朝の六時半だった。だれもまだ起きていなかった。ザビーネの部屋の窓はしまっていた。彼は彼女に足音を聞かれまいとして、爪先《つまさき》
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