張り込まれ、そこで数杯のシャンペンを飲んだのだった。彼は眠ることができないので起き上った。ある楽想《がくそう》が頭につきまとっていた。睡眠中に自分を苦しめたのはこれだなと彼は思った。そしてそれを書いてみた。読み返してみると、たいへん悲しいものであるのを見てびっくりした。書く時にはなんらの悲しみも感じてはいなかった、少なくともそうらしかった。しかしながら、いつかも、悲しんでる時に、癪《しゃく》にさわるほど快活な音楽しか書けなかったことがあるのを、思い出した。でそのことは、それ以上考えつめなかった。自分の内部の世界の不思議さには、訳はわからないながらも慣れきっていた。彼はそれからすぐにまた眠って、翌朝になると、もう何にも思い出さなかった。
彼は三、四日旅を長引かした。帰ろうと思えばすぐ帰れることがわかっていたので、旅を長引かすのが面白かった。急いで帰る必要もなかった。そして帰途の汽車の中で、彼は初めてザビーネのことを考えた。手紙も書き送らないでいた。もらってるかもしれない手紙を郵便局へ受取りに出かけて行くこともしなかったほど、呑気《のんき》であった。彼はそうして沈黙してることに、ひそかな
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