方を見ないで首を振っていた。
「いつまた会えるでしょうかしら?」と彼女はややあって言った。
 彼にはその問いの意味がよくわからなかった。もうそれは答えられてたはずだった。
「帰ってくればすぐに会えます、十五日か、おそくも二十日たったら。」
 彼女は落胆しきった様子をつづけていた。彼は冗談を言ってみた。
「あなたにはそれくらいの時間なんか長くはないでしょう。」と彼は言った。「眠っていらっしゃいよ。」
「そうね。」とザビーネは言った。
 彼女は微笑《ほほえ》もうとした。しかし唇《くちびる》が震えていた。
「クリストフさん!……」彼女は突然言いながら、彼の方へ身を起こした。
 その声のうちには悲嘆の調子がこもっていた。こう言ってるらしかった。
「行かないでくださいな! 発《た》っては厭《いや》!……」
 彼は彼女の手を取った。その顔をながめた。彼女がその二週間の旅を重大視してる訳がわからなかった。しかし、彼女が一言言いさえすれば、こう言ってやったであろう。
 ――行きません……。
 彼女が口を開こうとした時に、表の戸があいて、ローザが現われた。ザビーネはクリストフの手から自分の手を引込めた。
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