返してやった。それは彼にとって一条の日の光にも等しかった。彼は小声で尋ねた。
「加減が悪いんじゃありませんか。」
彼女は否という身振をして言った。
「寒いんですの。」
二人の男は自分たちの外套《がいとう》を彼女にかけてやった。あたかも子供を夜具の中にくるんでやるように、その足先や脛《すね》や膝《ひざ》を包んでやった。彼女はされるままになって、眼つきで礼を言った。細かな冷たい雨が落ち始めた。二人は櫂を取って、帰りを急いだ。重々しい雲が空を隠していた。川はインキのような波をたてていた。野の中にはあちらこちらに、人家の窓に火がともった。水車場へ着いた時には、雨が激しく降りしきっていた。ザビーネは凍えていた。
台所で盛んに火を焚《た》いて、驟雨《しゅうう》の過ぎるのを待った。しかし雨は降り募るばかりで、風まで加わった。町へ帰るには馬車で三里ほど行かなければならなかった。粉屋は、こんな天気にはザビーネを帰らせられないと言った。そして彼ら二人に、その農家で一夜を明かしてくれと言い出した。クリストフは承諾するのに躊躇《ちゅうちょ》した。彼はザビーネの眼つきに相談しかけた。しかしザビーネの眼は炉
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