の炎をじっと見つめていた。クリストフの決断に影響するのを恐れてるもののようだった。しかしクリストフが承諾の一言を言った時、彼女は彼の方へ赤い――(それは火の反射だったろうか?)――顔を向けた。彼は彼女が満足してるのを見てとった。
 楽しい一晩……。外には雨があばれていた。火は黒い暖炉の中で、金色の火花を無数に散らしていた。皆はそのまわりに丸く集まっていた。彼らの奇怪な影が壁の上に揺いでいた。粉屋はザビーネの娘に、手で種々な影を作る仕方を見せていた。子供は笑っていた。それでもすっかり安心しきってはいなかった。ザビーネは火の上にかがみ込んで、重い火箸《ひばし》で機械的に火をかきたてていた。彼女は少しぐったりしていた。家庭のことを述べたてる嫂《あによめ》のおしゃべりに、耳も傾けずただうなずきながら、微笑《ほほえ》んで夢想にふけっていた。クリストフは粉屋と並んで影の中にすわり、子供の髪を静かに引っ張っていた。そしてザビーネの微笑をながめていた。彼女は彼から見られてることを知っていた。彼は彼女から微笑《ほほえ》みかけられてることを知っていた。二人にはその晩じゅうただの一度も、たがいに話し合う機会
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