まった。ザビーネがそばにいなかったので、彼はもう少しも気を引きしめず、他人と同じくなんらの懸念もなしに磊落《らいらく》に遊び楽しんだ。
皆は三|艘《そう》の舟にのっていた。三艘ともたがいに追い抜こうとして間近につづいていた。人々は舟から舟へ、快活な冗談を言い合った。舟がすれ合った時、クリストフはザビーネの笑みを含んだ眼つきを見た。そして彼もまた微笑《ほほえ》み返さないではおれなかった。仲直りができた。やがて二人でいっしょに帰ってゆかれることを彼は知っていたのである。
人々は四部合唱を歌い始めた。おのおのの群れが順次に歌の一句を言い、反覆部はみなで合唱した。間を隔てた舟が、たがいに反響を返し合った。歌声は小鳥のように水面をすべっていった。時々どの舟かが岸に着けられた。一、二人の百姓が降りていった。降りた者は岸に立って、遠ざかってゆく舟に相図をした。元からあまり多くない仲間は次第に減っていった。声は合唱から一つ一つ離れていった。しまいには、クリストフとザビーネと粉屋との三人だけになった。
三人は同じ舟に乗り、流れを下って帰っていった。クリストフとベルトルトとは櫂《かい》を手にしていた
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