お募ってきた。牧場の間をうねってゆく行列の中で、ザビーネは時々ふり向いて、彼の方にやさしい眼つきを送った。彼は見ないふりをしていた。彼女は彼が怒ってるのを感じ、その訳も察していた。しかしそれでも彼女はほとんど平気だった。かえって面白がっていた。もし愛する男とほんとうに仲違いをしても、たといそれに心痛を感じようとも、彼女は決してその誤解をとこうとは露ほどもつとめなかったろう。それはたいへん骨の折れることに相違なかった。どんなことでもついにはひとりでによくなってゆくものである……。
食卓でクリストフは、粉屋の妻君と頬の赤い太った娘との間にすわった。彼はその娘に従ってミサに列して、その時は別に気にも止めなかったが、今少し見てやろうと思いついた。そして相当の容貌《ようぼう》だと思ったので、腹癒《はらい》せのために、わざとザビーネの注意をひくように、大声にちやほやした。彼はうまくザビーネの注意をひき得た。しかしザビーネは、どんなことにもまただれにも、嫉妬《しっと》を感ずるような女ではなかった。自分が愛されてさえおれば、その人がなお他の者を愛しようと、そんなことには無関心だった。腹をたてるどころ
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