く見て取った。彼女はそういうことに慣れていて、当然のことだと思っていた。当然のことだと思っていて、どんなことにも驚かなかった。彼女は愛されるためにもなんにもしなかった。彼女にとっては愛されるのがまったく自然のことらしかった。もし愛されなくとも彼女は平気だった。そのゆえにまただれでも彼女を愛した。
 クリストフはなおも一つ発見した。それは前のほど愉快なものではなかった。洗礼式はただに教母を仮定するばかりではなく、また教父をも仮定するものである。そして教父は教母にたいしてある権利をもってるもので、教母が年若くてきれいである時には、教父はたいていその権利を捨てるものではない。ところで、金髪の縮れた耳輪をつけた一人の百姓が、笑いながらザビーネに近寄って、その両の頬《ほお》に接吻した時、クリストフはそれを見て、にわかに気がついた。そういうことを今まで忘れていたのは馬鹿であるし、それを気にかけるのはさらに馬鹿であると、彼は考えるどころかかえって、あたかもザビーネがその闇討《やみうち》にわざわざ自分を陥れたもののように、彼女を恨んだ。式のつづく間、彼女と別々になってると、彼の不機嫌《ふきげん》さはな
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